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【120話】季節の薬木(冬)-ビワ-

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          家の小さな前庭に一本のビワの木があります。  今から18年前に中古で家を購入しました。その時まで、一度も実がならなかったと聞いていたビワが、花芽をつけ、5月には多くの実を実らせました。  そろそろ食べ時かなと思ってみますと、多くの実はヒヨドリについばまれていました。次の年には、ネットを張り、鳥からの被害を防ぎました。すると、次の年には実りが少なくなりました。  そんなことを何回か繰り返しているうちに、気が付いたことがあります。人と鳥との共存です。人間が実を食べると、その種はごみとして捨てられますが、鳥たちがついばむと、種は実からこぼれて、地面から新しい命を育みます。数年たつと、多くの若木が育っていました。ビワにとっては、人間様が食すより、鳥たちに食してもらったほうがどんなにうれしいことでしょう。そんなことを思った時から、ビワの実がなると、ちょっとおすそ分けをいただくことにしています。 ビワはインドから中国の南部にかけてが原産地です。 3000 年前から仏教医学の中にビワの葉療法が取り入れられ、多くの治療に用いられてきました。  日本においては、江戸時代に「枇杷葉湯」として、夏の暑気払いに盛んに愛飲されました。 てんびん棒を肩に、「本家烏丸の枇杷葉湯、第一暑気払いと霍乱(急性下痢)、毎年五月節句よりご披露つかまつります」と口上を述べながら売り歩くさまは、大江戸や京浪花の夏の風物詩だったようです。 「枇杷葉湯」はビワの葉に肉桂、藿香、莪述、呉茱萸、木香、甘草などの気を巡らす 生 薬を同量混ぜて煎じたものです。 生 薬の枇杷葉は、青々とした新鮮な葉の表面の柔毛をタワシなどで取り除き、水洗いして乾燥したものです。 有効成分として、ガン治療薬のアミグダリン(ビタミンB 17 )、精油、サポニン、ビタミンB1,ブドウ糖、クエン酸などを含み、酸性の血液を弱アルカリ性血液に変え、自然治癒力を促進する作用があるとされ、咳止め、暑気あたり、胃腸病、高血圧、糖尿病、リウマチなどに用いられています。 外用では、ビワ葉を火であぶるとビワ葉中のアミグダリンとエルムシンが反応して微量の青酸が発 生 し、それが皮膚から吸収され、多くの効果が発揮すると考えられています。 皮膚炎、やけど、水虫、ねんざにはアルコ...

【119話」ジンジャーの効用 

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              ジンジャーは熱帯アジアを原産とするショウガ科ショウガの根茎です。学名に offiinale (薬用の)とあるように、古来より洋の東西を問わず薬として用いられてきました。特に東洋においてのショウガをショウキョウ( 生 姜)、干したショウガをカンキョウ ( 乾姜)と呼び、ともに身体を温め、新陳代謝を盛んにすることを目的に、漢方薬をはじめ、多くの風邪薬や胃腸薬に配合されています。また、吐き気を抑える作用があることから、乗り物酔いや妊娠時のつわりにも用いられます。さらにショウガの刺激性と芳香性をもとに、浴用剤や石けんなどの成分としても利用されています。  また、ショウガは東洋のスパイスとしてヨーロッパに知れわたった最初のスパイスの一つでもあります。  現在、ほとんどのショウガは栽培されていて、大ショウガと小ショウガに大別されます。大ショウガは水分が多く、繊維質が少なく辛味性も少ないことから 生 食用とされ、小ショウガは辛味性が強いことから、スパイス、香辛料として用いられています。 生 のショウガには何種類かのジンゲロールと呼ばれる辛味成分が含まれていますが、ショウガを乾燥するとジンゲロールがさらに辛味の強いショウガオールに変化することが知られています。  ジンジャー油はアロマセラピーでは筋肉痛・関節痛の温湿布やマッサージに使用します。刺激性が強いのでごく少量か希釈して用います。また、他の多くの精油と、特に柑橘類の精油とよく合うといわれているのは、ジンジャー油には、シトラール、カンフェン、リナロールなどミカン科を中心に天然に広く分布している成分を含有していることからも理解できます。

【118】インフルエンザと麻黄湯

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生 薬の麻黄   今冬はインフルエンザの大流行です。そこで、インフルエンザに効く漢方薬「麻黄湯」についてお話をいたします。  「麻黄湯」はエキス剤又は煎剤として、医療用に7社7品目、一般用に17社22品目が製造販売されています。(JAPIC収載品)  最初に成分分量を見ますと、医療用の1日量は「麻黄 5 g、杏仁 5 g、桂皮4g、甘草 1.5 g」からなっています。 一般用を見ますと、医療用の成分分量と同じですが、比率は同じでも半量処方のものもあります。  効能効果は、一般用は「風邪のひきはじめで、寒気がして発熱、頭痛があり、身体のふしぶしが痛い場合の次の諸症:感冒、鼻かぜ」と統一されていますが、医療用はメーカーにより、一般用の効能と同じのもののほか、「高熱悪寒があるにもかかわらず、自然の発汗がなく、身体痛、関節痛のあるもの或いは咳嗽や喘鳴のあるもの(感冒、鼻かぜ、乳児鼻づまり、気管支ぜんそく)」や「悪寒、発熱、頭痛、腰痛、自然に汗の出ないものの次の諸症:感冒、インフルエンザ ( 初期のもの)、関節リウマチ、喘息、乳児の鼻閉塞、哺乳困難」など、証(漢方診断の症状からのしばり)を押さえた記載がされています。  用法としては、漢方薬一般にいえます食前、食間の空腹時をうたっています。  さて、ここで「麻黄湯」の出典について述べておきましょう。  中国の後漢の時代(2世紀)に張仲景によって編纂された「傷寒論」にこの処方を見ることができます。傷寒とは「寒気に触れ冒されたのを傷寒と名付ける」「太陽の病(筆者注:病気の罹り始めで症状が体表にある時期)で、あるいはすでに発熱し、或いはまだ発熱しないもので、必ず悪寒し、体が痛み、嘔き、脈が陰陽ともに浮緊なのは、傷寒と名付ける」とあります。  太陽病には、その時の症状により、桂枝湯、葛根湯、麻黄湯など多くの処方が準備されていて、麻黄湯の証の記載は「太陽病で頭痛がし、発熱し、全身が疼き、腰が痛み、骨節(体のふしぶし)も疼痛し、汗が出ず、そうして喘息症状のあるのは、麻黄湯が之を主(つかさど)る。」となっています。  以上のことから、インフルエンザで服用する場合は「インフルエンザに罹った初期で、悪寒がし、高熱が出て、関節などの節々が痛み、咳や鼻みずが出て、かつ、汗が出ていない状態」のときに用いて効果があることになります。 ...

【117話】生乾論(生姜と乾姜とヒネショウガ) (7)

  薬食同源のショウガ  私たちは古来より多くの自然の恵みを受けてきました。自然界の動植物を食物として命の糧に、或いは薬物として病気の治療に用いてきました。  特に、東洋においては薬食同源の考え方から、同じ動植物をある時ある食物として、またある時は薬物として用いてきました。ただ、一般的に食物としての動植物は新鮮ななまのものが尊ばれ、薬物としての動植物は乾燥した 生 薬として用いられてきました。  その中にあって、ナマのショウガは食品としてまた漢方薬物「 生 姜」として用いられてきた植物です。薬食同源といっても、食物と薬物ではその目的とするところが異なるわけです。市場のショウガのほとんどが食品の目的で栽培され品種改良がなされてきたことから、薬物としては従来のショウガとともに薬理的、臨床的効果の検証をしなくてはなりません。  今まで述べてきましたように、ショウガの栽培品種間の検討結果は、薬物としては小型ショウガは大型ショウガに較べて、より適したものと結論付けました。だからと言って、大型ショウガが全く使用できない訳ではありません。  ナマのショウガを日局「 生 姜」「乾姜」に換算するとき、現市場のショウガを乾燥すると 1/8 ~ 1/10 になるからと言って、その分量で調剤するのは問題が多いようです。辛味成分含量からみますと、やはり 1/4 ~ 1/5 とした方が適切だと思われます。 まとめ  以上、 生 姜・乾姜について、薬能の違い、漢方処方における日中の違い、特に日本の漢方製剤での問題点、さらに基原植物としてのショウガの栽培品種の問題、新薬効成分などについて話をすすめてきましたが、最後に、日本の市場に出回っている生姜・乾姜含有エキス製剤について一言述べたいと思います。  云うまでもなく現在の漢方の目を見張る普及は漢方エキス製剤の出現と薬価収載でした。 しかし、多くのエキス製剤が使用されるにつれて、その功罪も論じられてきました。  手軽に服用ができ携帯に便利な剤型は従来の漢方薬のイメージを一掃した反面、煎じ薬と比較すると効き目が悪い、さらに漢方薬にも副作用があると新聞紙上を賑わしています。  「葛根湯のエキス剤はあまり効かない」といった声をよく聞きますが、これは冒頭に述べましたように、葛根湯のエキス製剤中の 生 姜は乾燥した日局「 生...

【116話】生乾論(生姜と乾姜とヒネショウガ) (6)

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  薬用のヒネショウガ  漢方で用いるショウガは「ヒネショウガを用いる」と多くの書籍に書かれていますが、このヒネショウガとはどのようなショウガなのでしょうか。  ショウガの栽培は、秋の収穫期に採掘したショウガ根茎を 13 ℃ 程度の恒温倉庫に保存しておき、翌年の春4月頃に適当な大きさに割ってそれを種芋として植栽します。  5月頃になると、その種芋から新しい根茎が分けつし、茎が地表に顔を出します。次にその最初の新しい根茎から数か所次の新しい根茎が分けつし、それぞれの茎を立たせます。  6月と7月にさらに分けつを行い、9月になると急激に根茎の分けつと肥大が加速し、11月の収穫期を迎えます。  焼き魚の妻として添えられる葉ショウガ ( 芽ショウガ)は、5~6月頃の繊維質が少なく辛味の少ないショウガ根茎に10 cm ばかりの茎をつけたものですが、漢薬書に子姜(紫姜)と記載のものです。  さて、ヒネショウガとなりますと「ヒネ」とは「日がたって古くなる」ことを指しますから、秋に収穫して保存をしておいたショウガともとれますし、漢薬書に母姜と書かれている種芋ともとれます。また、十分に肥大した収穫期の根茎とも考えられます。  一方、中国の薬物書には、 生 姜と乾姜で収穫時期に相違のあることが記載されています。   生 姜は晩夏~秋~初冬にかけて収穫するとし、乾姜は 生 姜に較べて収穫時期が」少し遅くなっています。(表5)  このことを実証するために次の実験を行ってみました。     実験材料にショウガ金時種を用いて4月の種芋を植えたときから隔月に根茎ごとの成分含量を測定し、その比較を行ってみました。  (写真は10月の金時ショウガの分けつ根茎の名称  1 :母姜(種芋)  2 :主茎  3 :1次茎  4 :2次茎  5 :3次茎  6 :4次茎)  その結果、辛味成分については、母姜では経時的に少し減少するもののほぼ高い含量を示し、1・2次茎は根茎が急速に肥大する10月頃から高含量を示し、9月以降に分けつする3・4次茎は初めから高い含量を示しました。  抗コレステロール作用をもつジテルペン類は、母姜は8月、主茎は10月、...

【115話】生乾論(生姜と乾姜とヒネショウガ) (5)

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  薬用ショウガの品種  外国旅行の楽しみの一つは食事の楽しみです。日本ではお目にかからない食材と味付けは、異国の文化を理解する大きな要素の一つです。さらに、飲食をともにすると、その国の人たちとの友好と理解は確実に 早まります。  台北市街の青物市場は、南国の果物と野菜に溢れ、市民の食生活の一端を垣間見ることになります。  さて、ショウガはといいますと、日本の大型ショウガと較べて少し小ぶりで細長いショウガが並んでいます。「何に使うのか」と聞かれたので、「漢方薬を飲むときに」と応えますと、「それじゃこのショウガは駄目だ」と言って、奥から小さなショウガを持ってきて「これは辛くて良いものだ」と説明してくれました。  台湾では、蔬菜としてのショウガと漢薬としてのショウガははっきりと区別されているようです。  また、韓国ソウル市内の 生 薬問屋街の一角で売られていたショウガも小型~中型ショウガで、辛味性の強いものでした。 薬用ショウガの成分  漢薬のショウガは辛い方が良いとのことで、日本産の各種ショウガを齧ってみました。大ショウガは水っぽく、中ショウガ、小ショウガはそれに較べると遥かに辛味が強く感じられました。  ショウガはショウガ独特の風味と香りを示す精油成分がたくさん入っています。この精油が料理の味を引き立たせるのに大きな役割を演じています。お寿司をいただくときに添えられるショウガは魚の毒を消す働きがあるとされ、ちがったネタへ食指を移す間の一口は口中と舌に清涼感を与え、一つひとつの味を引き立たせてくれます。また、精油には食欲を増進させる作用もあります。  鰯等の小魚を煮つける時に、短冊に切ったショウガを一緒に入れて煮ますが、このときの小魚は 生 臭さが抜け、ショウガもまた美味しくいただけます。これもまた精油の働きです。  精油は一般的に乾燥や熱を加えることで、蒸発したり分解したりします。ですから、ショウガを乾燥させた日局「 生 姜」や「乾姜」には精油は僅かしか入っていません。  ナマのショウガがないからといって代わりに「生姜」や「乾姜」を小魚と煮つけますと、もう辛いだけで口に入れられたものではなく食べられたものではありません。 ...

【114話】生乾論(生姜と乾姜とヒネショウガ) (4)

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ショウガの乾燥物換算量と品種  厚労省の一般用漢方承認基準においても記載のある通り、ナマのショウガの代わりに乾燥した 生 姜「日局ショウキョウ」を用いる場合は、 1/3 ~ /4 量を使用することになっていて、多くの漢方の成書にもほぼ同じような記載がなされています。  しかし、この換算量に疑問の声があがっていて、某大学の漢方研究会の学生たちが、ナマのショウガから日局ショウキョウを作ると、夏場では 1/7 量、冬場では 1/9 量になったと報告しています。  実際に、私もショウガを乾燥して日局ショウキョウを作ってみました。そうしますと、やはり元のショウガの 1/8 ~ 1/10 量の乾したショウガが出来上がりました。  それでは、今までの換算量は間違っていたのでしょうか。  そのためには、ショウガについての市場、現状を見ておかなければなりません。  8月から10月になると、スーパーの野菜コーナーや八百屋の店頭に色白の大きなショウガが並びます。新ショウガといって今年とれたショウガですが、大きさは赤ちゃんの拳よりも大きくて瑞々しい感じがします。そのままかじっても、サクサクと美味しく食べられます。卸金で下してみますと、ショウガの汁が一杯出て、うまくすりおろすことができません。  私が幼いころに知っていたショウガと何だか少し違うようです。  卸金でおろすと栗のようにコリコリしていて、もう少し繊維質も多く、ほんの少し口に入れただけでピリリと辛いショウガはどこへ行ってしまったのでしょうか。  近頃の食材の変化はショウガも例外でなく、辛味の強いものがよいとされていたショウガから、より柔らかな辛味の少ない食べやすいショウガへと品種が改良されてきました。  ショウガは 生 姜・乾姜の生薬原料としての利用よりも、大半は蔬菜として食されています。従って、私たちが普段目にするショウガは蔬菜としてのショウガです。蔬菜として食用に供するショウガは次第に大きく柔らかく辛味が少ないものへと改良されてきました。 これらの蔬菜としてのショウガを薬用に使うことは問題がないのでしょうか。  江戸時代中期から後期の本草書を見ますと「茎基赤シ故ニ紫薑ト云・・・・霜後ニハ根熟シ老薑トナルコレヲ母薑ト云薬食ノ用ニ入ル」、「尋常母薑ノ鮮ナル物ヲ為良ト不用長崎ノ大薑・・・」、「長崎ノセウガ形...