【115話】生乾論(生姜と乾姜とヒネショウガ) (5)

 薬用ショウガの品種

 外国旅行の楽しみの一つは食事の楽しみです。日本ではお目にかからない食材と味付けは、異国の文化を理解する大きな要素の一つです。さらに、飲食をともにすると、その国の人たちとの友好と理解は確実に早まります。

 台北市街の青物市場は、南国の果物と野菜に溢れ、市民の食生活の一端を垣間見ることになります。
 さて、ショウガはといいますと、日本の大型ショウガと較べて少し小ぶりで細長いショウガが並んでいます。「何に使うのか」と聞かれたので、「漢方薬を飲むときに」と応えますと、「それじゃこのショウガは駄目だ」と言って、奥から小さなショウガを持ってきて「これは辛くて良いものだ」と説明してくれました。
 台湾では、蔬菜としてのショウガと漢薬としてのショウガははっきりと区別されているようです。
 また、韓国ソウル市内の薬問屋街の一角で売られていたショウガも小型~中型ショウガで、辛味性の強いものでした。



薬用ショウガの成分

 漢薬のショウガは辛い方が良いとのことで、日本産の各種ショウガを齧ってみました。大ショウガは水っぽく、中ショウガ、小ショウガはそれに較べると遥かに辛味が強く感じられました。
 ショウガはショウガ独特の風味と香りを示す精油成分がたくさん入っています。この精油が料理の味を引き立たせるのに大きな役割を演じています。お寿司をいただくときに添えられるショウガは魚の毒を消す働きがあるとされ、ちがったネタへ食指を移す間の一口は口中と舌に清涼感を与え、一つひとつの味を引き立たせてくれます。また、精油には食欲を増進させる作用もあります。
 鰯等の小魚を煮つける時に、短冊に切ったショウガを一緒に入れて煮ますが、このときの小魚は臭さが抜け、ショウガもまた美味しくいただけます。これもまた精油の働きです。
 精油は一般的に乾燥や熱を加えることで、蒸発したり分解したりします。ですから、ショウガを乾燥させた日局「姜」や「乾姜」には精油は僅かしか入っていません。
 ナマのショウガがないからといって代わりに「生姜」や「乾姜」を小魚と煮つけますと、もう辛いだけで口に入れられたものではなく食べられたものではありません。

 ショウガがピリリと辛いのはジンゲロールと呼ばれる辛味成分のためです。構造式側鎖の炭素数の違いによって、6-ジンゲロール、8-ジンゲロール、8-ジンゲロール等があり、これらは全てきわめて強い辛味性を持っています。(図1


 また、ジンゲロール類は乾燥や熱を加えることによって、水1分子が少ないショーガオール類に変わります。これも辛味性が強く、ナマのショウガには存在しなく、乾燥した「姜」や「乾姜」に多く存在することから、ショーガオールの薬効が姜と乾姜との違いであろうと考え、昇圧作用、解熱、鎮痛、抗炎症作用などの薬理活性を検討した方向がなされていますが、それだけでは十分と言い切れないようです。
 香辛料として使用されるジンジャーは、おもにこの辛味成分の働きを期待しています。
 漢薬としてのショウガは、姜(ナマのショウガ)においては精油成分と辛味成分を期待していますが、乾姜だはほとんど辛味成分とその二次成分に期待していることになります。
 辛味性が弱く繊維質の少ない柔らかいショウガが好まれるようになった現在、辛味性の強い薬用ショウガが忘れ去られようとしています。

金時ショウガの宝物

 北原白秋は『寂しさに堪えてあらめと水かけて紅き姜の根を揃ヘけり』とショウガの根茎の紅きを詠っていますが、このショウガは金時ショウガと思われます。
 本草書の考証からも、従来の我が国の薬用ショウガは金時ショウガだと推察されますので、金時ショウガを材料に日局「生姜」を作ってみました。金時ショウガを乾燥させた「姜」は黄色味を帯びた決まりのあるものが出来上がり、元のショウガ重量の1/4になりました。
 この「姜」の成分は、ジンゲロール類やショーガオール類の辛味成分と精油成分の他に、ショウガから初めての、(E)-8β-epoxylabd-12-ene-15,16-dial)とガラノラクトン()のジテルペン成分が見つかりました。(図2


 ジテルペン()は西アフリカ・カメルーン地方に自生するショウガ科アフロヌム属植物の種子からすでに単離されている成分ですが、金時ショウガ中の含量は主要有効成分の6-ジンゲロールより多量に含まれていました。そこで市場品の日局「姜」「乾姜」を調べたところ、その芯材は確認されませんでした。
 現在の市場品はほとんどが中国ですが、少なくとも金時を基原植物とするものではないことが判りました。

 薬物の薬効を検討する場合、多量に試料があり、はっきりとしたターゲットのない時には、薬理スクリーニングを実施するのが一般的です。
 金時ショウガ中のジテルペン()は多量に存在したことで、45項目の一般薬理スクリーニングを行いました。4項目に効果のあることが判りました、中でも特に顕著な効果を示したのが抗高コレステロール血症作用でした。
 
体内のコレステロール量は、コレステロールを含んだ食物を摂取すること、体内でのコレステロールの生合成、それとコレステロールの体外への排出によってコントロールされています。中でも合成の影響が70%と高い比率を占めています。
 そこで最近の抗コレステロール剤は、生合成を担うHMG-CoA還元酵素の活性を阻害することを目的に、ロバスタチン、プロバスタチンといった薬剤が脚光を浴びてきました。(図3



 図2と図3の構造式を比較しますと、金時ショウガ中のジテルペンはロバスタチン、プロバスタチンの構造によく似ています。
 ということで、ジテルペン()のラット肝臓におけるコレステロール生合成抑制について検討したところ、in vivo, in vitro 共に顕著な抑制効果を示しました。
 このことは姜・乾姜の薬能の一つである駆瘀血(活血)作用を裏付けたものと考えます。


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