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【124話】漢薬の生姜・乾姜の基原と品質の諸問題(3)/生姜・乾姜のショウガ根茎の採取時期・ 修治(乾燥法)の問題・ 生姜・乾姜中の主要成分

  生 姜・乾姜のショウガ根茎の採取時期 前述しましたショウガ根茎の「老薑」「母薑」といった草齢に関する記載と共に、中葯志、中華人民共和国葯典等の中国書籍の中に「 生 姜」は夏~秋~初冬に収穫し、「乾姜」は冬に至って収穫するとの文面があり、ショウガ根茎の草齢が 生 姜、乾姜の品質に関与している可能性を示しています。(表5) 表5 中国文献に見られる薬用ショウガ根茎の採取時期   生姜 乾姜 中薬炮炙 夏秋季取地下根茎 冬季取老的根茎 中薬炮製及薬材 夏季秋季取地下根茎 冬季取老的根茎 中葯大辞典 夏季采掘 冬季茎葉枯萎時取 中葯志 立秋至冬至前采根茎 冬至至降霜前采根茎 中華人民共和国葯典 秋、冬二季采 冬季采 修治(乾燥法)の問題 乾姜はショウガ根茎を乾燥して造りますが、その乾燥にはいくつかの方法があります。ショウガの新鮮根をそのまま日陰で乾燥する方法、おおよそ日陰で乾燥した後に火力(電気)乾燥で仕上げる方法(中国の乾姜、日本の乾生姜)や蒸してから乾燥する方法(日本の乾姜)などがあります。  中国の古典「経史証類備用本草」には、「圖經曰」として「秋採根於長流水洗過日爲乾薑漢州乾薑法以水薑三日去皮又置流水中六日更刮去皮然後曝之令乾醸於瓮中三日乃成也」の文面が見え、これら修治の違いが乾姜の品質の違いになるのか検証の余地があります。  以上のような、ショウガ、 生 姜、乾姜の歴史的背景とその問題点に対し、いくつかの検討を行いましたので以下述べてみます。   生 姜・乾姜中の主要成分   現在迄に 生 姜・乾姜から辛味成分( [6]-, [8]-, [10]-gingerol 、 dehydrogingerone,   [6]-shogaol, zingerone )、セスキテルペン類(α -zingibe...

【123話】漢薬の生姜・乾姜の基原と品質の諸問題(2)/日局ショウキョウと漢薬/生姜・乾姜の名称・生姜と乾姜の薬能

  日局ショウキョウと漢薬/生姜・乾姜の名称 日局ショウキョウはショウガ Zingiber officinale R OSCOE (Zingiberaceae) の根茎と定められ、漢名として「 生 姜」と「乾 生 姜」の名前が併記されています。一般に、日本においては、新鮮ショウガ根茎を「 生 姜」、乾燥したショウガを「乾 生 姜」、蒸してから乾燥したものを「乾姜」と称して用いていることからしますと、日局ショウキョウは「乾 生 姜」に相当します。そして,日本の漢方,中医学で使用される 生 姜、乾姜は,中国では「 生 姜」を 生 姜、「乾 生 姜」を乾姜として、日本では「 生 姜」又は「 生 姜」の 1/3 ~ 1/4 の「乾 生 姜」を 生 姜、、「乾 生 姜」又は「乾姜」を乾姜として用いてます.(表2)  このように、日中において、 生 姜・乾姜には用法、名称の違いがあり問題のあるところでです。表3に、一般用漢方処方( 210 処方)の 生 姜・乾姜含有処方をあげましたが、 表2  Zingiber officinale を基原とする 生 薬   日局   d ) 日本漢方 e)  中医学 f ) 「 生  姜」a) - 生 姜  生 姜  生 姜  「乾 生 姜」b) ショウキョウ 乾姜 乾姜 「乾 姜」c) ― 乾姜 (別規定)   a : 生 ( ナマ ) の Zingiber officinale の根茎 b :乾燥した Z. officinale の根茎 c :蒸して乾燥した Z. officinale の根茎   d : 14 改正 日本薬局方   e :現代 , 日本で行われている中国伝統医学(漢方医学)   f :現代 , 中国における中国伝統医学(中医学)   表3 生...

【122話】漢薬の生姜・乾姜の基原と品質の諸問題(1)/はじめに・薬用生姜の基原

  はじめに 未病を防ぐ食物と病気を癒やす薬物が同じものである事例は数多くあります が、特に東洋においては、医食同源の思想と相まって、多くの同じ植物・動物が食品と薬物の両方に用いられてきました。 中でも、ショウガは食品として 生 食する他、香辛料としても繁用され、一方、漢薬の 生 姜・乾姜として多くの漢方方剤、生薬製剤に配剤されています。  現在、流通するこれら 生 姜類生薬の品質評価を行うに当たり、修治という調製加工だけでなく、全ての基本となる評価材料の真偽・選定に関わる問題が解決されていなければならなりません。即ち、薬用植物としてのショウガの出典、並びに歴史的背景を踏まえたショウガの変遷、更には植物分類面からの検討が必須と考えられ、従って、古典中医学や古典漢方の布石の上に本草学的考証を行う事が大切であります。 また、近年改良が重ねられてきたショウガの栽培品種が薬用ショウガとしての要件を備えているかの検証も必要です。 これら 生 姜・乾姜の品質に関して、基原を中心に検討したいくつかの問題を以下述べてみようとおもいます。 薬用ショウガの基原 ショウガは熱帯アジア(インド、マレー)を原産とし、我が国には3世紀以前に渡来したと見られます。その時の品種は小ショウガ系と考えられ、8世紀迄に「久礼乃波之加美(クレノハジカミ)」の和名で栽培化が定着しました。 生 姜・乾姜の基原植物を考えるときに、日本漢方が体系づけられた江戸中期~後期の本草書籍からショウガに関する代表的な文献を引用しますと、 「茎基赤シ故ニ紫薑ト云‥‥霜後ニハ根熟シ老薑トナルコレヲ母薑ト云ウ薬食ノ用 ニ入ル」 「尋常母薑ノ鮮ナル物ヲ為良ト不用長崎大薑‥‥」 「長崎ノセウガ形最肥大ニテ佛掌薯(ツクネイモ)ノ如シ‥‥薬ニ入ルニ堪ヘズ」 「薬舗ニテ三河ヨリ出ル物ヲ上トス」 とあり、「老薑」や「母薑」などの草齢に関する記述、更に、現在食用とし市場の大半を占める大ショウガ系の品種は薬用に該当せず、小ショウガ系が当時薬用ショウガとして使用されていた記述を認めます。そして、その特徴は「茎の基部が赤色」を呈し、良品は三河(現愛知県付近)に産するショウガであったことが示唆されます。 近世に至り、小ショウガ系は大ショウガ系に比して、乾燥歩留まりがよく、堅実で辛味性も強...

【121話】 二月五日の七草粥 

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                                 大晦日が明けますと「新春」と云います。一年は春から始まります。しかし、一月から二月にかけては一年で最も寒い時期に当たります。  一月七日に春の七草を入れた七草粥を食す習慣がありますが、七草(セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、ススナ、スズシロ)のうち、栽培野菜のスズナ(大根)、スズシロ(蕪)は手に入るものの、他の五つの野草はまだ芽吹きもままならない環境です。 今年(令和7年)新暦の一月七日は旧暦の二月五日にあたります。大寒が過ぎて、立春が近づいてきますと、野には春草の新芽が顔をのぞかせます。そのように考えますと、昔からの行事は旧暦に従って行うのが理にかなっています。  冬の青い野菜が少なかった時代に、自然の恵みを心待ちにした七草粥の行事は、食材があふれている現代人にとって感動を受けることが少ないのかもしれません。  一月七日が近づくと、スーパーでは、ハウス栽培された七草のセットが売られます。それが結構売れるというのですから驚きです。  現代人には、一月七日に七草粥を食べるよりも、二月四日に野に出て、野草の新しい芽 生 えに春の気配を感じることのほうが重要かもしれません