【122話】漢薬の生姜・乾姜の基原と品質の諸問題(1)/はじめに・薬用生姜の基原
はじめに
未病を防ぐ食物と病気を癒やす薬物が同じものである事例は数多くありますが、特に東洋においては、医食同源の思想と相まって、多くの同じ植物・動物が食品と薬物の両方に用いられてきました。
中でも、ショウガは食品として生食する他、香辛料としても繁用され、一方、漢薬の生姜・乾姜として多くの漢方方剤、生薬製剤に配剤されています。
現在、流通するこれら生姜類生薬の品質評価を行うに当たり、修治という調製加工だけでなく、全ての基本となる評価材料の真偽・選定に関わる問題が解決されていなければならなりません。即ち、薬用植物としてのショウガの出典、並びに歴史的背景を踏まえたショウガの変遷、更には植物分類面からの検討が必須と考えられ、従って、古典中医学や古典漢方の布石の上に本草学的考証を行う事が大切であります。
また、近年改良が重ねられてきたショウガの栽培品種が薬用ショウガとしての要件を備えているかの検証も必要です。
これら生姜・乾姜の品質に関して、基原を中心に検討したいくつかの問題を以下述べてみようとおもいます。
薬用ショウガの基原
ショウガは熱帯アジア(インド、マレー)を原産とし、我が国には3世紀以前に渡来したと見られます。その時の品種は小ショウガ系と考えられ、8世紀迄に「久礼乃波之加美(クレノハジカミ)」の和名で栽培化が定着しました。
生姜・乾姜の基原植物を考えるときに、日本漢方が体系づけられた江戸中期~後期の本草書籍からショウガに関する代表的な文献を引用しますと、
「茎基赤シ故ニ紫薑ト云‥‥霜後ニハ根熟シ老薑トナルコレヲ母薑ト云ウ薬食ノ用ニ入ル」
「尋常母薑ノ鮮ナル物ヲ為良ト不用長崎大薑‥‥」
「長崎ノセウガ形最肥大ニテ佛掌薯(ツクネイモ)ノ如シ‥‥薬ニ入ルニ堪ヘズ」
「薬舗ニテ三河ヨリ出ル物ヲ上トス」
とあり、「老薑」や「母薑」などの草齢に関する記述、更に、現在食用とし市場の大半を占める大ショウガ系の品種は薬用に該当せず、小ショウガ系が当時薬用ショウガとして使用されていた記述を認めます。そして、その特徴は「茎の基部が赤色」を呈し、良品は三河(現愛知県付近)に産するショウガであったことが示唆されます。
近世に至り、小ショウガ系は大ショウガ系に比して、乾燥歩留まりがよく、堅実で辛味性も強いことから、香辛料、チンキ剤・シロップ剤の原材料として高く評価され盛んに外国に輸出されるようになりました。明治時代に最盛期を迎えましたが、以後、輸出の不振、蔬菜としての大ショウガの台頭などで、現在、小ショウガの栽培は衰退の一途をたどり、矢ショウガ、葉ショウガとしての限られた目的で、関東付近の限られた地域で栽培されているに過ぎません。一方、大ショウガ系は江戸時代に一度導入され、再度、明治時代に導入されて以来、蔬菜として多くの品種改良が行われ、生産並びに販路を広め、現在、九州四国を中心に多くの栽培品種が生産されています。
現在の主な栽培品種 (表1) の中で薬用としての品質を検討し、どの栽培品種が使用できるのかを検討する必要があります。
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品種 産地、特徴、別名など |
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小ショウガ系 金時 静岡原産、葉茎基部は濃紅色、根茎は肉質緻密で極めて辛い、干ショウガに最 低とされ海外へ輸出された来歴がある優良品種、 別名:弁慶遠州、武州、紅ショウガ
Zingiber
officinale var. rubens 静岡4号 金時を母種とする近年の改良品種 谷中 関東特産、葉茎基部は淡紅色、早稲種(7月より収穫)、根茎は水分が多く、 辛味性はやや弱い. 別名:盆種、岡種 茅根 静岡原産、葉茎基部は紅色、痩せて細く、辛味性は強いが水分が少なく、生で の日持ちが悪い、金時にやや落ちる品種. 別名:小ショウガ、本茅根、茅 |
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中ショウガ系 黄ショウガ 愛知原産、葉茎基部は淡紅色(赤芽と白芽あり)、根茎は太り豊満、水分が多く (三州、三河) 柔軟、辛味性は中程度、国内及び輸出用として良品. 別名:牧野 土垂ショウガ 千葉原産、葉茎基部淡紅色、根茎はやや中型、辛味性は弱いが病気に強い品種 別名:土、手賀、当尾 近江ショウガ 現在関東に多く栽培されるが、滋賀原産と推定、葉茎基部は淡紅色、根茎はや や大型で肥満、辛味性は比較的弱い. |
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大ショウガ系 大ショウガ 主に九州四国の暖地で栽培、葉茎基部は他の品種に比して淡い、根茎は極めて 大きく、辛味性は弱い. 別名:支那種、広東ショウガ、オタフク、土佐一、インドショウガ、カンボ、 ジャンボ Zingiber officinale var. macrorhizomum |
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