【141話】 モモ(春) 生薬名:桃仁(トウニン) 

       


 「すもももももももも」は漢字で表わしますと「李も桃も桃」となります。これには少し異論があります。李は桃ではありません。強いて云えば、李も桃も、植物の分類から見ると、同じバラ科のサクラ属(Prunus)に属しますので、同じ仲間と云えばいえます。Prunusはラテン語で「スモモの木」を意味しますから、サクラ属の代表が李となります。従って、「すももももももすもも」であれば、まだ納得もいくというものです。Prunus属には桜は勿論のこと、梅や杏も含まれ、更にアーモンドも同種で、早春から咲き出す花に心が和みます。

 古来よりモモは邪悪を払う力があるものと考えられていたようで、日本人の誰もが知っている「桃太郎」の鬼退治の話も、イザナギが妻イザナミを追いかけていった黄泉の国で醜女に追いかけられ、最後にモモの実を投げて退散させた話などは、モモの力を物語っています。理想郷を桃源郷と呼ぶのも、モモに守られた世界からでしょう。

 モモの果実の核の中にある種子を、薬の「桃仁」と呼び、消炎性の駆瘀血薬(くおけつやく)といって、血液の滞りをなくし、血液の循環をよくする働きがあり、桂枝茯苓丸や桃核承気湯といった婦人の更年期障害、月経不順、血の道症などを改善する漢方処方に配合されています。

 また、開花前のつぼみを乾燥させたものを生薬では「白桃花」と呼び、緩下剤として用います。モモの葉は去痰、鎮静、緩下などの作用があることから、気管支炎に用いたりします。ただ、緩下作用があるため、妊婦への多量使用は注意が必要です。

古来より、梅や桜と同じように多くの人々に愛でられてきたモモは、また多くの歌に歌われてきました。万葉集には大伴家持が歌った「春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つをとめ」があり、モモの色と匂いに満ち溢れています。

 サクラ属のアンズは、その種子の中にある仁を「杏仁(きょうにん)」といい、中華料理に使うときは「あんにん」と呼び区別をしています。

 杏仁は鎮咳・去痰作用があり、麻杏甘石湯や五虎湯などの漢方処方に配剤され、気管支喘息の治療に用いられます。

 サクラの樹皮は桜皮(おうひ)と云って、江戸時代の名医、華岡青洲が創薬した皮膚疾患の漢方薬「十味敗毒湯」に使われていますし、ウメは燻製にした烏梅(うばい)が、鎮咳、去痰、鎮嘔、解熱などに使われます。

 バラ科サクラ属は生薬の宝庫といえるのです。 


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