【023話】秋田紀行/湖となまはげ
今回は私的な旅行記です。九月のシルバーウィークに、秋田の湖巡りを目的にドライブを楽しんできました。
小雨のぱらつく曇天下の旅でしたが、車を降りての観光時は意外に雨も止んで、時には晴間も見えて、主だったところは見て廻れたと思っています。
秋田空港でレンタカーを借りて、最初に向かったのが角館です。春には、必ずと言っていいほどテレビで取り上げられる桜の名所ですが、武家屋敷が連なる通りは当時の面影が伺えます。当日もテレビドラマの撮影が行われていて、ロケーションにはもってこいの街並です。
黒塀が続く街並みには、実もたわわなムラサキシキブや可憐な花を吊るしたマユミが満開です。側溝に沿ってミズヒキが紅い帯を連ねています。ふと黒塀の上を見あげると、見事な「キササゲ」が実もたわわになっていました。キササゲはノウゼンカズラ科の落葉性高木で樹高10メートルほどにもなり、6~7月にキリに似た紫いろの斑点のある白い花を咲かせます。
果実はササゲのように細長く、その中には白毛をもった種子がびっしりと詰まり、さや果が縦に割れて飛び出し風に吹かれて散布されます。
この果実は日本薬局方にも収載されている生薬で、利尿作
用が顕著で民間薬として、また漢方処方の生薬(梓実)として使われてきました。
角館をあとにして、田沢湖畔に向かいました。
田沢湖は水深が423.4メートルの日本最深の湖です。田沢湖へ来た人たちが必ず訪れる「たつこ像」に会いに行きました。永遠の美貌を願い大蔵観音に願を掛け、泉の水を飲み続けよとの観音の言に従ったところ、龍に変身し田沢湖の主となった辰子姫の伝説があります。何だか中途半端な伝説で、辰子姫は願いが叶ったのでしょうか。もし叶ったとしたら、美貌の龍に変身したのでしょう。
小雨交じりにかかわらず大勢の人たちでにぎわっています。最近の観光地のご多分にもれず、外国の、それも中国、韓国の言葉が飛び交っています。
宿泊は湖畔のホテル「イスキア」にとりました。チェックインをしていますと、韓国からの団体様が到着です。それも異様な雰囲気です。ロビーにおかれた雑誌も韓国特集が多いようです。その時、ようやく事情が呑み込めてきました。ここは、日本でも評判になった連続テレビドラマ「IRIS](アイリス)の舞台なのです。
フロントで聞きますと、その撮影にスタッフ・キャストが、この「イスキア」に三週間滞在し撮影を敢行したそうです。主演のイ・ビョンホンが泊ったB21号室やラブシーンにも使われた撮影セットがそのまま残されています。そして、これからあとの旅はずーとこのアイリスに付きまとわれたのです。
その日は、車で30分かけて近隣の乳湯温泉「妙乃湯」まで出かけ、混浴を楽しんできました。
翌日は、盛岡の石川啄木館と花巻の宮沢賢治記念館を訪れ、東北の土の文学に触れたあと、一路、八幡平へ向かいました。
八幡平は奥羽山脈の北部、秋田と岩手にまたがる広大な高原です。樹海ラインを走ると、その両側にはアオモリトドマツの原生林が広がっています。ブナの樹林も現れ、白樺が秋田美人の白い肌を誇らしげにしています。小雨にけぶった八幡平は紅葉の季節を迎える前の静けさを見せています。
八幡平は火山でできた高原です。岩手山(2038m)の噴火によって噴出した溶岩が山肌を流れるままに冷えて固まってできたのが「焼走り熔岩流」で、国の特別天然記念物です。扇状に広がる黒い岩石帯は、長さ約3km、最大幅約1kmに及び、緑あふれる周囲とは全く別の荒涼とした世界を展開しています。
そんな草木も生えない溶岩の中にしっかりと根を下ろした植物が見られました。イタドリです。
イタドリはタデ科の植物で、山野のいたるところに生える多年生の草本です。本州北部や北海道には草丈が2mを越すオオイタドリがあり、高山では矮小化したオノエイタドリがあります。その根茎を乾燥したものが生薬の「虎杖根(コジョウコン)」で、アントラキノン類やタンニン類が含まれていて、緩下薬、通経薬、利尿薬として、常習便秘、下痢、膀胱炎月経不順、閉経等に用いています。
十和田湖は若い時からの憧れの湖でした。奥入瀬にも想いを寄せていました。
十和田湖は二重カルデラ湖ですから、外輪山を越越えなければなり途中で早生の津軽フジを買い込んで、発荷峠を目指します。その、展望台から見下ろした十和田湖の俯瞰は心の垢を落としてくれました。絶景です!
奥入瀬は前日の雨のせいか水量が多く、苔むした岩が水没して、絵葉書のような光景ではありませんでしが、風情には遜色なく、二時間ばかりの滝と渓流巡りは楽しいものでした。
奥入瀬渓流に沿った散策道には秋の花が迎えてくれます。
キツリフネ、ナギナタコウジュが滝のしぶきを浴びています。中でも、トリカブトの濃き紫の兜花は、幽谷に差し込む光の影に、この地を得たりといった落ち着きがあります。
トリカブト。キンポウゲ科トリカブト属の総称で、日本には四〇種ほどがあります。全草、特に根に多く含まれるアコニチンは、極めて毒性が強く、アイヌの毒矢に用いられたりしています。ときどき、新聞紙上を賑わすトリカブト殺人事件は、手ごろにていに入る毒薬だからかも知れません。
また、芽吹きの頃には、セリやゲンノショウコと似ているため、山菜と間違えて食し、中毒事故を起こすことがあります。嘔吐、下痢、呼吸困難を引き起こし、時には死を招くことがあり注意が肝要です。
漢方では、このトリカブトの根を高圧蒸気処理加工等を施し減毒したものを附子(ぶし)と呼び、鎮痛、強心、抗リウマチ薬として用いています。
十和田湖畔の乙女の像は高村光太郎の最後の彫刻作品で、モデルは高太郎の妻、智恵子と言われています
が、高太郎はこの像に「この原始林の圧力に耐えて立つなら幾千年でも黙って立っていろ」と言っています。
確かに肉欲的で大地を踏みしめた立像にはそんな気持ちを起こさせてくれます。そのそばには智恵子と同じように堂々としたナナカマドの大木が真っ赤な実を鈴なりに付けていたのが印象的でした。
最後の日は、男鹿半島を廻りました。八郎潟の干拓地のど真ん中突っ切りました。どこまでも直線道路が碁盤目状に走っています。どの田圃も黄金の稲穂であふれています。今年は豊作だったようです。
半島の先端は入道﨑です。日本海に突き出たこの半島は、荒波が押し寄せ岸を削り絶壁を形作っています。短い草が地を這うようにへばりついていますが、その中にちょっと首をもたげてツリガネニンジンが揺れています。
ツリガネニンジンはキキョウ科の花で、この和名は釣り鐘状の花が咲き、大きな根を朝鮮人参に例えたことからきています。八月~九月が花時です。
この根を乾燥させたものを沙参(シャジン)と呼び、サポニンを含むことから去痰作用があり、慢性の咳止め、痰切り、のどの痛みに用いられています。
「山でうまいはオケラにトトキ 嫁にやるのもおしゅござる」と里謡で謡われているトトキはツリガネニンジンの古い呼び名で、春先の若い芽を摘んでおひたしやあえ物にするとなかなかおつなものだそうです。一度食してみたいと思っています。どなたかお願いできませんでしょうか。
ちなみに、トトキの花言葉は「優しい愛情・感謝・誠実」です。
男鹿半島に来たからには、「なまはげ」を見ずには帰れません。男鹿半島のほぼ全域で毎年大晦日に行われる「なまはげ」は国の重要無形民俗文化財です。
鬼の面、ケラ蓑、ハバキを身に付け、大きな出刃包丁を持って家々を訪れ、「泣ぐコはいねがー」という荒々しい声を発しながら怠け者や子供、初嫁を探して暴れるのを、主人がなだめながら丁重にもてなすのが「なまは
げ」の大筋です。村々で面に特徴があり、一同勢ぞろいをした「なまはげ」は「なまはげ館」に展示されています。
そのお面の一つをみやげにと思ったのですが、数万円から十数万円もし、手も足も出ません。近くの真山神社にお参りし、その鳥居のそばの古びた店に、藁で編んで蓑に小さなお面が付いた「なまはげ」を見つけ、みやげに買い、今、玄関の上がり端にかけてあります。怠け者やいたずらっ子が来ても、大きな声は出しませんので安心して御来訪ください。(了)
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