【028話」お屠蘇(とそ)を語る

 


 かつて日本のお正月に欠かせないものの一つに「お屠蘇」がありました。勿論、過去形で書く必要はないのですが、若い世代には忘れられた存在になりつつあります。

 かといって、年配の方にも、その由来や作法といったことは、あまりお知りになっておられません。そこで、老婆心ながら「お屠蘇」について一言申し上げたいと思います。

 

一.屠蘇の意味 

 「お屠蘇」の「屠蘇」という名前は、字面を見て少し奇異に感じます。「体をばらばらにして殺す、家畜を殺して肉をとる」との意のある「屠」という字はおめでたいお正月の戴きものとしては忌み嫌らわれる文字でしょうね。

 つぎの「蘇」の字は「よみがえる」が一般的です。「よみ(黄泉↓死の世界)+かえる(返)」で、「息を吹き返す、き返る」ということになります。他にも「くっついていたのが離れて別々になる」「びっしり生えた葉を刈って間をすかせる」「紫蘇」などの意味があります。

 では「屠蘇」とはどういう意味でしょうか。「蘇という悪霊を殺す」と解説している向きもありますが、少し無理な解釈のようです。「殺し、そして甦る」との意味でしょうか。これはキリストの復活を連想させますね。

 そういえば耶蘇会といったキリスト関連の言葉も見えて、キリストに関係するとの説をお立てになっておられる方もおられます。しかし、常識的に見て、「邪を殺し、体を元気に蘇らせる」が素直な見方だと思います。

二.屠蘇の来歴

 お屠蘇は、漢の武帝の時代の名医「華陀(かだ)」の発明と言われています。日本へは嵯峨天皇の八一一年(弘仁二年)に、中国の博士蘇明が来朝の折伝えたもので、天皇が元旦の四方拝の御式後、御酒にこの屠蘇を浸して飲まれたのが始まりです。その後、国民もこれに倣い、元旦に屠蘇をいただくことになりました。特に江戸時代になって盛んになってきました。

 一般の町民が医者にかかれるようになったのは江戸時代になってからで、薬代や診察のお礼を盆暮れに薬礼として医者に渡す習いでしたが、特に歳末の薬礼の折、医者からお屠蘇が配られました。従って、無病息災で医者にかからなかった家では薬屋で屠蘇を買うことになります。こんな古川柳があります。

  薬種屋で屠蘇を買うのは無病なり

 三.屠蘇の薬味と効能

 華陀が処方の「屠蘇」は正式には「屠蘇延命散」と言います。屠蘇に配合されている薬味は白朮(蒼朮)、桔梗、防風(浜防風)、山椒、桂皮、茴香、陳皮、甘草、紅花、丁字、大黄、附子などがあります。

 この内、瀉下効果の強い「大黄」と身体を温める効果が顕著なのですが毒性にも注意が必要な「附子」は現在除かれています。

 白朮(蒼朮):キク科植物オケラの根茎で、身体の水分を調整する働きがあり、健胃、利尿を目的に使います。

 桔梗:キキョウ科植物キキョウの根で、痰を除き、咳を静める働きがあります。

 防風(浜防風):セリ科植物ボウフウ(ハマボウフウ)の根及び根茎で、発汗、解熱作用があり、感冒や身体疼痛に使います。

 山椒:ミカン科植物サンショウの成熟した果皮で、芳香健胃薬として用いられます。

 桂皮(肉桂):クスノキ科植物シナモンの樹皮で、発汗、解熱、鎮痛作用があり感冒に用いられます。

 茴香:セリ科植物ウイキョウの果実で、芳香性健胃薬として用います。

 陳皮:ミカン科植物ウンシュウミカンの果皮で、健胃、利尿、鎮咳作用があります。

 甘草:マメ科植物カンゾウの根で、鎮痛、鎮咳作用があり胃痛、喉痛などに用いられますが、矯味として多くの薬剤に配合されています。

 紅花:キク科植物ベニバナの花弁で、血の滞りをなくし鎮痛作用があることから、産前産後、血の道症、腹痛などに使われます。

 丁字:フトモモ科チョウジの花蕾で、芳香性健胃薬として用いられます。

 このように、屠蘇の配合薬味を見ますと、胃腸を整え、風邪の対応が出来た処方で、現在医薬の立場からも理に適ったものといえます。

 四.屠蘇の作法 

 お屠蘇の飲み方が伝えられています。その一通りをご紹介致します。

 「赤い三角袋に薬味を入れ、大晦日の夕暮れに、その家の家長が井戸に袋を吊し、翌元旦の日の出前に身を若水(元旦一番に汲んだ水)で清め、太陽に礼拝した後、井戸より取り出しお酒に浸ける。

 家族全員で神仏に礼拝した後、新年の挨拶を交わし、朱塗り又は白銀や錫のお銚子に入れた屠蘇を三段重ねの朱塗りの杯に注ぎ、東を向いて、年少者より飲む。順次、年輩者へ杯を回す。男は片手で受け、女は両手で受ける。」

 面倒ですが、一度お試しあれ。違った元旦が迎えられるかもしれません。


YouTube「寄り道脱線 生薬雑話」の「【100話】お屠蘇を語る」に、屠蘇についての動画が収載されています。

 

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