【097話】衣食足って礼節を知らず  

 

 昔から、「衣食足って礼節を知る」と言われています。食べることにガツガツしないで済むようになると、気持に余裕がでてきて、気分もゆったりとなり、ひとりでに礼節が身につくものだと考えられてきたのですが、現在の日本社会を眺めてみますと、衣食は十分すぎるほど足っているのに、モラルは低くなったように思い、どうも衣食と礼節には相関関係がないのではと疑問に感じます。

 ただ、東洋では過去の長い歴史の中で、絶えず飢えとの共存を強いられてきたこともあって、桃源郷の必須項目に衣食の心配は無用との一行が必要であったと思われます。

 一方、食が満たされた当世において、食事に対する喜びが薄らいできているのも事実です。動物たちが食事をする時のあの熱中ぶりを見ていると、うらやましくもほとほと感心させられます。確かに、現代人は今迄に増して忙しくなってきたのはわかるのですが、「ながら食事」について一言申し上げます。

 テレビを見ながら、新聞を読みながら等の「ながら食事」は楽しいはずの食事に水を差すだけでなく、料理を造ってくれた人に失礼でもあります。そのうえ、体のことを考えてみても決してよくはありません。

 食欲は視覚から始まるものです。見た目においしそうな料理は食欲がわきます。おいしさを眼で確認し、食べたい意欲を起こさせて、体に食事をとる準備をさせます。その次に、臭覚でにおい、唇、歯、舌の味覚、触覚で味わいます。暗闇での食事が味気ないのはこの第一段階を飛ばしているからで、テレビや新聞を見ながらの「ながら食事」はこのことと同じことをしているわけです。

 ついでに申しますと、よくかんで食べよとの注意は、噛んでいるうちに唾液が出るだけでなく、胃では胃液の分泌の準備が始まり、食物受入れの臨戦態勢が整うからです。

 またひとつ、気分を害しての食事は腸液の分泌が抑制されます。たとえば、叱られたとき、心配なとき、怒ったり悲しんだりしている時の食事は、なかなか食べ物が喉を通りません。身体が食べてはいけないと防御していますので、無理に食べると体によくはありません。

 食品公害が云々され、食品添加物が悪いとか、鮮食品や自然食品がよいといっても、楽しく食事ができなければ何にもならないので、このことが十分考慮できれば、健康な体に健全な精神が宿ることで、食足って礼節も知れようと思うのです。 

 

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