【079話】餓死したロバ 

  



 腹を空かせたロバがうまそうな干し草を前にして餓死した話があります。

 息も絶え絶えなロバが一頭、果てしもない荒野を歩いていました。すると突然目の前に、距離も外観も、においも色もまったく同じ二つの乾草の山があらわれました。

 これでき返ったと思ったロバは、さてどちらを食べたものかと思案しました。どちらの干し草も同じようにおいしそうに見えます。しかし、ロバにしてみると、どちらが良いのか判断がつきません。そのうち、考えることもおっくうになって、結局、決断のつかないまま飢え死にしたというお話です。

 なんと愚かなロバよ、と笑ってはいけません。これに近い経験は誰しもあって、例えば、電車に乗るのに長い列ができていて、最前列の真ん中で待っていたとします。位置は最高、必ず座れるものと思っていると、電車がついてドアが開くや、後ろからドドーッと押されて中にはいったものの、どちらに座ろうかと思案しているうちに、席はすっかり占領されていたなんてことはよくあることです。勿論、最初からどちらに座ろうと決めていたなら別なのですが、人間の咄嗟の判断は、よほどはっきりした判定基準がないと、へまをやってしまうものです。

 しかし、こんなことで人間が餓死せずきていけるのは、どちらでも良い時はサイコロを振ることを知っているからで、ただ、大きいサイコロもあれば小さいサイコロもあって、その使い分けは必要になります。まして、のべつまくなし、サイコロを振っていたのではお話しになりません。

 各自にとって重要なことは、事前にリスクを想定した危機管理かもしれませんね。 

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