【064話】ニンジンあれこれ
世の中には、本家の呼び名を新参者が乗っ取る例が数多くあります。食物の世界でも例外ではありません。
「はじかみ」は昔、サンショウ(山椒)を指していましたが、大陸からショウガ(生姜)が移入された折、サンショウに似たピリリとした味があることから、クレノハジカミ(呉のはじかみ)と呼ばれていました。今では、すっかりショウガの代名詞として定着しています。
「ニンジン(人参)」もまた、同じ運命をたどっています。従来、ニンジンは今の朝鮮人参(高麗人参、吉林人参)を指していました。明治初期に、赤いニンジン(キャロット)が入ってくると、ニンジンに似た形態から西洋人参と呼ばれました。しかし、今では、西洋人参と言えばニンジンが通り名になっています。
従って、従来のニンジンを呼ぶのに、朝鮮や吉林などの産地を冠して呼ばなくてはならなくなりました。
しかし、ここには問題があります。実はこのニンジン、日本でも多く産出します。長野県丸子地域、島根県大根島、福島県会津地域は日本三大産地として有名です。特に、優良なニンジンは、蒸して赤くしたコウジン(紅参)として、中国、韓国に輸出しています。産地名を冠するのであれば、これらは信州人参、因州人参、会津人参と呼ぶか、いっそのこと日本人参と呼ぶべきかもしれません。
朝鮮人参には、精神の安定、肉体の賦活をはじめ多くの素晴らしい薬効・食効があり、現在も世界中の人たちに愛飲されています。
あるとき、北海道函館を旅した時のことでした。ぶらり函館港の朝市に出かけてゆきますと、修験者の格好をして、何やら口上を述べている人がいます。万能の高野人参だと言って売っています。匂いや形からみて、それは当帰だと知れました。一言、申し上げようと思ったのですが、周りを見渡しますと、何人かサクラを兼ねたお仲間がおられるようで、口を閉ざしてしまいました。
家に帰って、いろいろ調べているうちに、当帰を大和や高野では、高野人参と呼ぶことがあるとの一文を目にして胸をなでおろしました。そう思えば、大和吉野の大地にある大深地域には素晴らしい大深当帰が生産されています。
それから数年たって、土佐の高知城下の朝市で、山人参と称して売っているおばさんがいて、これもよく見ると当帰でした。今回は、おばさんに尋ねますと、土佐では昔から、これを山人参と称して使っているとのことでした。
ところ変われば品変わる、ではありませんが、朝鮮人参があまりにも高価で著効のあることから、それにあやかり人参の名前が使われてきたのでしょう。
だからと言って、西洋人参に人参の名を使ったことは如何なものかと思わざるを得ません。
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