【062話]朮(おけら)と螻蛄(おけら)
俳句の秋の季語に「蚯蚓(みみず)鳴く」というのがあります。秋の夜、土の中から「ジジジジ」と聞こえてくる声を蚯蚓の鳴く声としたのですが、実際には蚯蚓は鳴きません。鳴いているのは螻蛄(おけら)という虫の声です。
ゆうべみみずの 泣く声きいた あれはけらだよ おけらだよ おけらなぜ泣くあんよがさむい 足袋がないから 泣くんだよ おけらにあげよか 福助足袋を こはぜが光るよ ちょいとごらん
ぼくらは みんな 生きている 生きているから 歌うんだ ぼくらは みんな 生きている 生きているから 悲しいんだ 手のひらを太陽に 透かして見れば 真っ赤に流れる ぼくの血潮 みみずだって おけらだって あめんぼだって みんなみんな 生きているんだ 友達なんだ
と、歌っていて、蚯蚓と螻蛄が出てきます。
一方、京都の八坂神社では大晦日に年越しの風物詩「おけら詣り」が始まります。幼いときから、福助足袋の螻蛄を知っていた者には、「おけら詣り」の「おけら」が螻蛄でないと知ったのはかなり大きくなってからでした。、「おけら詣り」の「おけら」はキク科の植物オケラ(朮)で、薬として使われていて、生薬名を「白朮」といい、水毒を治す利水剤として胃腸薬等に配合されています。
また、「山でうまいはオケラとトトキ、里でうまいは茄子、かぼちゃ」と里謡で歌われるオケラとトトキは山菜の王様と云われるほど、春の若葉は美味しいものです。なお、トトキはキキョウ科のツリガネニンジンです。
大晦日の夜から元旦の朝にかけて、「おけら灯籠」にオケラの根と柳の削りかけが燃やされ、その御神火を火縄に受けて、火が消えないようにぐるぐる回しながら家路につきます。その火でかまどに火を入れ雑煮を焚いて食べると一年を無事息災に過ごせると云います。
寒い家路への夜道に、ふと思った二つの「おけら」でした。
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