【059話】山椒は小粒でひりりと辛い
江戸の辻々を香辛売りの掛け声が響いてきます。「ひりりと辛いは山椒の粉、すいすい辛いは胡椒の粉、芥子の粉胡麻の粉陳皮の粉、中でも良いのが娘の子、居眠りするのは禿の子、とんとんとんとんとんがらし」
山椒は中国が原産ですが、二千年前にできた中国の「詩経」に、東海の諸島にもあることが記されています。
古事記の神武天皇の有名な御歌に
みつみつし 久米の子等が垣下に 植ゑしはじかみ 口ひびく 吾は忘れじ 撃ちてし止まむ
と、「はじかみ」が読み込まれています。現在、はじかみは生姜のことですが、当時、生姜はクレノハジカミ(呉のはじかみ)と呼ばれ、中国から渡ってきた山椒のように辛いものとの意でした。
さらに、古名のはじかみは「はじかみら」の略といわれ、「はじ」は、はじけるの意で、「かみら」はニラの古名、すなわち果実の皮がはじけて、味がニラに味に似ていることからきた名です。
雌雄異株の山椒は、男木のほうは辛味が少なく味わいが乏しいのに較べ、女木のほうは葉の香りも高く、食用に供されます。
山椒の一変種、兵庫県朝倉の今滝寺にあった朝倉山椒は棘がなく、果実も大きく、香気が高いことから、古来より、献上品、御用達品として珍重されてきたようです。
晩春から秋まで、芽、葉、皮、花、実というふうに、季節ごとにその香りと味が楽しめます。
若芽は「木の芽」として、柚子とともに日本料理の香辛料の横綱格として、すまし汁の吸い口、豆腐の木の芽田楽、筍の木の芽あえ等に用いられ、花山椒、実山椒は佃煮に、未果実は「青山椒」として塩漬けで保存され、辛皮(若い枝の皮)も、塩漬けにしたものを醤油で煮たり味噌漬けにして食します。
一方、漢方で使われる山椒は、椒梅湯、大建中湯、当帰湯などに処方される熱性刺激薬で、健胃や鎮咳に効があります。
このように、有史より医薬に食用に供されてきた山椒は、その材の固さが頃合いで、粘りが強く、擂粉木としては最良のもので、また、杖として長寿の願いを込めて重宝されています。
人生は、この山椒のように無駄なく過ごせる訳にはまいりませんが、せめて山椒のように、小粒でもピリリと辛い人生でありたいと願うものです。
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