【047話】日本の伝承薬~黄柏~  

                キハダ

 黄柏はミカン科の植物キハダの外皮(コルク層)を剥いだ樹皮ですが、古来より漢方の薬として、また、日本の伝承薬・民間薬として多くの製剤に用いられています。

 主要有効成分であるベルベリンberberineは、その苦味ゆえに、健胃薬として、また、整腸薬として世界的にも良く知られています.

 しかし、薬の黄柏は東洋の薬物としての域を出ていません。それもその筈、黄柏の基原植物の分布は東アジアに限定されるからです。

 日本では黄柏を使った民間薬・伝統薬が数多く各地に伝承されてきました。奈良県大峰山や和歌山県高野山の「陀羅尼助」は、僧侶が陀羅尼経を唱えるときの眠気を払拭させるため用いたと言い伝えられています。

 その味は確かに眠気を吹っ飛ばすくらい苦いものです。因州因幡の「煉熊」や越中富山の「熊の胃」は本来、熊胆(熊の胆嚢)を使用していましたが、現在、熊がワシントン条約(絶滅する野生生物を保護する条約)に規定されていて、今では黄柏から抽出した黄柏エキスが代用されています。その他、信州木曾御嶽の「百草」や秋田の「しころ」も黄柏を使った胃腸薬です。また、黄柏の粉末を酒で練って、打ち身捻挫の湿布薬として外用しますと素晴らしい効果が期待できます。

 漢方で黄柏は、同じくberberineを含有する黄連とよく比較されます。同じberberineを含んでいますので、どちらを使ってもよいと思われますが、黄連は胃や心臓の働きすぎを抑える生薬として、黄柏は内熱を取る、言い換えますと腸の炎症を抑える生薬として用います。ですから、黄連と黄柏が配合された漢方処方「黄連解毒湯」が胃と腸の炎症を抑える処方として準備されているのです。

 日本薬局方には、黄柏の基原植物として、キハダPhellodendron amurense(東北黄柏/関黄柏)とシナキハダP.chinense(南部黄檗/川黄柏)が収載されています。従来、日本において黄柏は、日本から朝鮮・中国東北部(黄河の北)に野生するキハダを用いてきましたが、乱伐による資源の枯渇で、現在は揚子江(長江)流域に産するシナキハダへと需要と供給を移してきています。

 berberineの含量から見ますと、シナキハダの方がはるかに高い含量を有しています。しかし、製品の規格や製品の品質特性から見ますと、一概にシナキハダを使うわけにもいかず、両者を混合して使うこともされています。

 薬以外では、アイヌの木彫りの材料として使われたり、黄色の草木染めに使われたりします。黄柏に抗菌作用のあることから、キハダ染めの布や紙は、それらで包んでおくことにより衛生包装資材としての利用が期待されています。

 黄柏を山号にしたお寺が京都の宇治にある「黄檗山萬福寺」です。萬福寺は、1654年(江戸時代)、中国から渡来した隠元禅師が1661年に開創した代表的禅宗伽藍の寺院です。日本三禅宗(臨済・曹洞・黄檗)の一つです。中国福建省にある黄檗山萬福寺がその由来で、中国のそれを古黄檗、日本のものを新黄檗と言い区別 しています。

 大峰、高野、御嶽、大山など山岳宗教の地に黄柏薬が伝えられていることを考えると、当時の医療の担い手が僧侶であり、したがって、黄柏は宗教と深い関係あり、その効きめが確かなのが窺い知れます。

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