【043話】万葉の歌と植物/雄略天皇と菜を摘む乙女
万葉集は、雄略天皇の次の歌で幕を開けます。
籠もよ み籠持ち 掘串もよ み掘串持ち
この岳に 菜採ます児 家かな 告さね
そらみつ 大和の国は
おしなべて われこそ居れ しきなべて われこそ座せ
われにこそは 告らめ 家をも名をも
籠は良い籠を持ち、へらも良いへらを持って、この丘で菜を摘んでいる娘よ あなたの家はどこですか 言っておくれよ この大和の国は全て私が治めているのです その私がここにいるのです 私には教えてくれる おまえの家をも名前をも
この歌が詠まれたのは、奈良県桜井市にある泊瀬朝倉宮あたりとされています。この歌から雄略天皇の誇らしげな声が聞こえてくるのですが、私には、小高い丘陵に乙女がひとり、食材にする山菜か薬草を摘んでいる姿にほのぼのとした古代の生活が垣間見えてうれしくなるのです。
「身土不二」という言葉があります。私たちは、同じ土地に生きている動物や植物と共存していて、その土地で採れた食物を一番よい旬の季節に食することが、健康の理に適っているということです。
現代人は山野に出て野草を摘むことが少なくなってきました。 草木の芽生えに春を感じ、食卓に上がった若葉の味に英気をもらい、咲き出した花の色と香りに心の安らぎを覚える自然との付き合いは、ストレスに押しつぶされそうになっている現代人には必要なことかもしれません。
五月の中旬は、都会の中にあっても、ちょっとした空地や脇道は可愛げな花たちの楽園です。カラスノエンドウの横にはスズメノエンドウが寄り添い、時にはカスマグサ(カラスノエンドウとスズメノエンドウの間の草)までが隠れています。オオイヌノフグリにイヌノフグリとタチイヌノフグリが話しかけ、ハルジオンとヒメジョオンが私を主張すれば、シロツメグサとアカツメグサが立ち替わり入れ替わりの乱舞です。ずんぐりむっくりしたセイヨウタンポポの傍らには清楚なカンサイタンポポが佇んでいます。
これらおなじみの花たちの半分は近年海外から来た移住者ですが、それでも古来からの日本の花たちを万葉の乙女が摘んでいたと思うと心が騒ぎます。
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