【039話】マカオ騒動顛末記 

 

香港
            ICMCM会場(コンベンション&エキシビジョンセンター)

香港展示会

 今から15年ほどまえのこと。日本の丁度お盆の時期に、香港で国際漢方及び健康食品展示会(ICMCM)が開催されていて、ここ3年前から全国の家庭薬を製造販売している企業十数社が共同でこの展示会に出展してきました

 その年も12社が参加しました。同時期に開催されるフードエキスポは毎年30万人近い入場者があり、今年はこのフードエキスポ会場と隣接されたこともあって大勢の来展者があり、盛況を極めました。


 今回、私たちのブースに、中国のVIPが訪問するとの連絡を受けていました。大勢の関係者とマスコミを引き連れての来訪です。日本のOTC市場に関心があるような質問が多かったと思います。

 マカオへ

 今年の香港は例年とは違い到着以来雨続きで、時折稲妻、が走り雷鳴が轟き最悪の天候でした。4日目にやっと晴れ間も出て、数人で澳門(マカ)の薬局訪問に出かけました。

   香港島の地下鉄「上環」駅近くの澳門行きのフェリー乗り場から出国し、約1時間で澳門に到着です。出国手続きに少し時間がかかりますので、早めの行列が必要です。

 今回も、おひとり間際の手続きで、予定の便に乗れずに一便あとの乗船となりました。

 ジェットエンジンの音も軽やかに、約1時間の澳門までの船旅です。澳門港で簡単な入国手続きを終えて通関しますと、大勢の送迎バスへの呼び声が交差します。そのほとんどはホテルへの送迎バスです。これはホテル経営のカジノへ運ぶ誘導バスなのですから、勿論、無料なのです。

MGMグランド

 いつまで港にいても仕方がないので、近くにいたMGMグランドマカオ行きのバスに乗り込みました。マカオ文化センターや海に突き出て立っている大きな金の観音像やバンジージャンプでおなじみのマカオタワーを周遊してホテルへと到着です。ほとんどの人はホテルの見事な中庭を通りぬけカジノへと向かいます。

 


カジノでの騒動

 昼間からカジノは盛況です。ただ、広いカジノには楽しんでいる顔よりも難しい顔の人たちが多いのに驚かされます。いくつかのゲームを観戦して、ルーレットに挑戦しました。負けたり勝ったりして、最後はきれいに巻き上げられました。中庭で休憩しようとして、肩にかけていたカバンの中に手を入れて青ざめました。確かに入れてある財布が見当たりません。

 先ほどチップに換える時に財布を出し、その後、カバンの深いサイドポケットに確かに押し込んだのですが、ありません。すぐにやられたと思いました。

 ホテルのフロントに財布をすられた旨を申し出ますと、「どこで掏られたのか。」「いつ掏られたのか。」「どんな財布か。」といったことは一切聞かれず、やおら地図を出し、ある一点に×を印し、「police station」と書き入れたのです。

 歩いて5分ほどの日本の交番のような建物に入りました。事情を説明すると、「少し待て」と言ってるらしい。あまり英語が伝わりません。しばらく待っていますと、交番前にパトカーが停まりました。「乗れ!」といっているようです。

 まさかマカオに来て、パトカーに乗るとは思ってもみませんでした。

 本署の二階にあがって、長椅子に座って待つこと十数分、係官が質問をします。

 「財布には何が入っていたか。」

 「パスポートと10万円の日本円、それに1500香港ドル。」

 「それでは遺失物申請書に必要事項を書け。」

 中国語とポルトガル語と英語で書かれた書類の空白を埋めることになりました。記載欄に父母の名前を書く欄があって、今は既に亡き両親の名前を、まさかこの歳になって、こんな異国の警察の取り調べ室のような薄暗い机で書こうとは思ってもみませんでした。至らぬ息子ですみません。

 

 出入境事務所と領事館

 やっと、紛失証明書をもらって警察を出たのが5時過ぎです。出入境事務所は既に閉まっているが、非常口の呼び出しベルを押して、事情を説明すると応対してくれるとのことで、タクシーを拾い、事務所へ急ぎました。

 教えられた非常口の呼び鈴を押して、説明をしましたが、事務所は月曜日の9時に開くのでその時間に来てくれと言います。警察での話しをしたのですが、その対応ができるのは香港人だけとのこと、がっかりです。この日は土曜日、あと二泊をマカオで拘束されることになります。

 マカオには大使館も領事館もありません。仕方がないので、香港の領事館に電話をしました。執務時間は過ぎていましたが、緊急の場合の受付はしてくれていました。パスポートを紛失したことを申しますと、パスポートナンバーを教えてくださいとのこと、パスポートを盗られてパニクッている私は「パスポートに書いてあるナンバーだから、パスポートがないのでわかりません。」と、冷静にお答えしました。

 領事館の担当官が申されますのは、「月曜日の9時に警察の紛失届書と一角半の写真3枚をもって手続きしてください。それが終わり、マカオを出港する前に、何時の船に乗るかを知らせてください。香港入国までに領事館から入国許可書を届けておきます。何かありましたらご連絡ください。」

 

 携帯電話は必需品

 携帯電話の電池容量が少なくなっています。2日間のホテルの確保と充電器の購入が差しあったての緊急要件です。出入境事務所の近くに宿をとることにしました。パスポートのない身元不明の外国人は止めてくれそうにもありません。まずは、パスポートのある人にお手伝いいただいて、身元を明らかにし、私のVⅠSAカードでの支払いで、宿泊を確保することができました。ひと先ず安心です。

 つぎに、充電器の購入ですが、携帯していたのがソフトバンクの i-Phoneだったため、当時あまりその機種を持っているホテルの従業員もなく、少し離れた電気屋までタクシーで出かけたのです。最初に入った店にはなく、定員の話だと空港近くの店にはあるだろうとのことです。今から行ってもこの不確かな情報では心もとなく、近くの電気店を探しました。ほんとに運が良かったのです。何と、充電器はいく種類も置いてあって、涙の出るほどうれしい思いがしました。

 今回のパスポート紛失事件で思ったことは、パスポートと現金、キャッシュカードは別々に保持すること、携帯電話は必需品で、身元保証には運転免許書が役立ったことでした。

 関係者や自宅に電話して、ホッと一息。シャワーを浴びて、下着を洗濯し、ベッドに横になって、明日一日の算段をし始めると、頭にも体にも疲れがどっと出てきて、ひとりでに瞼が閉じていました。

 世界遺産と薬局訪問

 南国の朝の太陽がガラス窓から差しこんでいます。時刻は7時。よく寝たものです。乾きの下着をドライヤーで乾かして、あとは体温で乾かそうと袖を通し、バイキングの朝食へとレストランへと向かいました。

 さて、マカオ拘束の今日一日をどう過ごすか。オレンジジュースが頭の回転を速めます。どうしようもない事態です。しかし、考えようによっては、よい機会が得られたとも思えます。

 当初の目的の薬局訪問、それに話題の世界遺産見学が一日かけてやれることになりました。そこで、薬局訪問のついでに世界遺産を見て回るか、世界遺産を見て回るついでに薬局訪問を行うかです。結論はすぐに決まりました。世界遺産を見て回るついでに薬局訪問を行うことにしました。何故ってですか。それは、世界遺産は地図にはっきりと記されていますが、薬局はどこにあるのかわかりません。知らない街は目標を定めて歩く方が理にかなっているとの判断です。

  この日は、特に暑い日でした。ホテルの北側に小高い丘があって、そこが25番の世界遺産「砲塔台」です。丘の裾野を東周りに真北まで行くと山頂行きのロープウェイが動いています。2香港ドル。

コマツナギ

 南国の花が見事です。その中に日本でも見られるマメ科の植物コマツナギを見つけました。海外では、一昨年パリのベルサイユ宮殿の庭で見て以来です。クズ(葛)に近い植物で、野に遊び馬(駒)の手綱をそっと掛けたことで名づけられました。

 三十の世界文化遺産

 マカオの世界文化遺産は、2005年7月に、22の歴史的建造物と8つの広場を含む地域が「マカオ歴史市街地区」として登録されました。狭いマカオの地に30もの世界文化遺産があるのは驚きですが、一つの歴史市街地区と考えたほうが無難のようです。

 古いポルトガルと中国の文化が共存する町並みは他に類のない景観を醸し出しています。

 最初に訪れた「東望洋砲台」は他の遺産と少し離れたマカオ半島の最高峰の東望洋にあり、そこから見下ろす展望はマカオ市街を一望できる絶好の場所です。東望洋山を下り、街の中心部へ向かいました。その日は亜熱帯の太陽が真上から照り付ける暑い暑い日で、少しの木陰を求めて歩くことになりました。

 マカオのホテルはどこも奇を衒った外観を誇示していますが、中でもグランド・リスボア・ホテルは市内のどこからも望める群を抜いた構造物です。

 グランド・リスボア・ホテルの横を通り、西への坂を上りますと、聖オーガスティン広場に出ました。この広場を囲むようにドン・ペデロ五世劇場、聖オーガスティン教会、聖ヨセフ修道院、ロバート・ホー・トン図書の世界遺産が肩寄せ合っています。しばらく、ベンチで休憩した後、目的の聖ポール天主堂跡に向かいましたが、どう方向を間違えたのか、東へ行くところを北に向かい、海岸に位置するピア一六ホテルの前に出てしまいました。それからが大変で、裏町のアパートが建ち並ぶ細い道を通り抜けたり、急な石畳の階段をのぼったり、突然現れたカメラを持って眼鏡をかけた日本人に驚かれたりして、全身汗まみれの体で、やっとのこと聖ポール天主堂跡にたどり着きました。かれこれ、20年以上も前に一度来たことのあるマカオの印象として残っているのは、この天主堂だけで、それを思い出してホッとしました。

聖ポール天主堂跡

天主堂に上り、階段の下を見下ろすと、まっすぐに繁華街が続いています。

 何軒かの土産品をウインドショッピングしていた時、やっと薬局を見つけました。世界遺産を見て回りますと、そこはメイン通りから少し離れたところにあるせいか、薬局は見つかりませんでした。マカオの薬局も量販店は日本とよく似た構えで、品揃えもありました。日本製品も多く目につきました。

 ナーチャ廟、聖アントニオ教会を見て、カーザ庭園でホッと一息入れました。炎天下のもと、四時間ほど歩き回って、緑の庭園で休んでいると、急に疲れがどっと出てきて、ホテルでのシャワーと一杯の冷えたビールが欲しくなりました。タクシーを拾おうとして、手を上げるのですが停まってくれません。やっと拾えたタクシーに飛び乗り、行き先のホテルを告げますと、猛烈なスピードで走りだしました。運転手は一言もしゃべらず、前方を向いたままで、ハンドルにかじり付いています。

 ホテルに着いて、少し多めのチップをはずんで、やっとサンキュウの言葉が返ってきました。ホテルへ入ろうとすると、ドアマンが怪訝な顔でドアを開けてくれました。フロントの前を通り、エレベータの前まで行く間も何人かの視線が気になりました。

 部屋に入り、鏡を見て驚きました。なんと、頭からつま先までびっしょりと濡れていたのです。シャツもズボンも、靴までも汗でびっしょり濡れています。それに頭までが水をかぶったように髪の毛が顔にへばりついているではありませんか。

 まずは、シャワーを浴びてから、下着とシャツと靴下を洗濯し、ズボンとともにドライヤーで乾燥し、あとは体温で乾かすつもりで、乾きの状態で身に纏い、近くの日本料理屋へ出かけました。その時の、一杯のビールと串カツのなんとおいしかったことか。

 マカオ脱出
 月曜日の朝早く、電話のベルが鳴り響きました。今回の脱出劇をサポートしていただける中国語の話せる氏が香港からホテルに到着したとのことです。ここでは、中国語とポルトガル語が話せないと何とも埒がいかないようです。
 移民局での出国証明を申請する際の写真が必要なので、写真屋を聞いたのですが、はっきりしたことが分かりません。すると、ホテルマンがここで写真を撮ってあげようと親切に申し出てくれました。デジカメで撮って、コンピューターで処理し、プリントアウトするとのことで、それでは、とお願いすることにしました。大きさが一角半なので、その大きさに縮小したり拡大したり、なかなか思うようにいきません。やっと縦の長さが決まりましたが、横が広すぎて合いません。それから、数十分あれこれやっていたのでしょうが、出来上がった写真を見て驚きました。A四の紙の左上隅に縦に長細い顔が貧弱に映っていたのです。横幅が合うように圧縮したのでしょう。唖然としました。これでは役に立つはずはありません。一応、彼の努力に敬意を払って、それを受け取って、出かけようとしたところ、五〇〇円ほどの請求をされたのには二度びっくりでした。
 三〇分ほどの無駄な時間で、移民局は大勢の人が待合室に溢れています。順番待ちのカードを持って、待つこと小一時間、やっと、呼ばれて、警察の紛失届を見せ、申請書に必要事項を書き込み、写真を見せると、これは使えないと言われました。どうしようかと思っていると、係官
が、別室で写真撮るので来い、といいます。写真をとられて、二時間後に書類を渡すとのことで、移民局をひとまず出て、近くのレストランで軽く食事をとることにしました。

 書類をもらったのは十二時を過ぎていました。すぐに港まで行き、出国の手続きをしました。ここでもあれこれ質問され、手続きに三十分はかかりました。

香港入国
 やっと香港行きのフェリーに乗り込んで、すぐに香港の日本領事館に電話をかけました。香港に到着まで一時間、それまでに領事館より香港入国管理局へ書類が送られ、本人証明が済まされているはずです。

 香港の入国に際しても、写真を撮られ、書類を書かされました。待つこと小一時間。やっと香港へ入国です。

 香港日本領事館

 出迎えのD嬢の案内で、日本領事館に向かいました。業務は四時三〇分まで。それまでにいけば今日中に帰国証明書を出してもらえるようです。領事館で書類をもらい、通り向かいの写真屋で証明写真を撮り、紛失証明書と申請手数料二三〇〇円を納めて、待つこと二時間、ようやくにして、日本へ帰れる手続きが終了しました。

 ひとつ解せないことがあります。マカオでも香港入国でも写真と申請の料金がかからなかったのに、税金を納めている日本国民が領事館での申請に費用が必要なのはわかりません。それにしても今日は長い一日でした。



そして帰国
 翌月曜日、帰国の日です。
 香港空港での出国にあたって、ひと悶着ありました。係官に「帰国のための渡航書」と航空券を提示して、立っていますと、「これではだめだ、パスポートを出せ」と言います。これはパスポートの代わりのものと説明しても納得しません。しばらく、言い合っていますと、年配の別の係官が来て、事情を聞いています。すぐに了解してOKとなりました。若い係官はこのような書類を見るのは初めてだったのでしょう。それにしても、ふたりが笑いながら長いことしゃべっていたのには腹が立ちました。
 関西空港に降り立って、入国手続きの長い列に並んで、やっと自分の番が来たのですが、書類を見せると、これは別の窓口と言われて、またすごすごとそこまで移動して手続きをしました。ここでも、身分照会のチェックで時間がかかり、手荷物受け取りのレーンには、私の荷物だけが、くたびれた様子でさびしげに回っていたのでした。


 プロローグ
 今回はパスポート盗難(紛失?)という失態を演じたわけですが、大いなる反省の中で、多くの教訓と経験が得られたことに感謝しなければなりません。
 海外において、パスポートは命の次に大切なものと思いました。
 海外旅行のガイドブックにも書いてありますが、パスポートのコピーをパスポートと離して携帯すること、大使館・領事館の所在地と連絡先は控えておくこと、携帯電話は充電器も含めて必需品であること、大使館・領事館のない国では金曜日の午後遅くに紛失しないこと、出入国では忍耐が必要であること、パスポートなしであまり歩き回らないこと等など。
 
 それと、多くの方にご心配ご足労をおかけしたことに心が痛みます。領事館への手配をはじめ、諸々お世話になったL氏、マカオホテルの手配などでお世話いただいたⅠ氏、マカオ脱出に協力をいただいたs氏をはじめ、多くの皆様のご協力のおかげと思い、ここにあらためて心からの御礼を申し上げる次第です。

 後日談
  1年半ほどして、マカオ警察から電話があり「パスポートが見つかったので取りに来てほしい」とのこと。
 新しくパスポートを取り直しているし、マカオまでわざわざ取りに行く時間と費用もないことから、そちらで処分してほしい旨、伝えて電話を切りました。



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