【009話】葛(カズラとクズ)

 

クズの花

  秋の七草のひとつ「クズ」は、マメ科の蔓性の植物クズPueraria lobata で、日本では古来より人々の活に密着してきた有用植物です。漢字では「葛」と書き、字音は「カツ」、意読として「クズ」「ツル」「カタビラ」「ツヅラ」「カズラ」があります。最近、この「クズ」に縁があって、そのいくつかをご紹介します。

 大阪府と奈良県を隔てる山脈の一つに「大和葛城山」があり、ツツジの季節は山頂を真っ赤に染めて燃えるようです。また、大阪府と和歌山県の境には「和泉葛城山」がなだらかな稜線を見せていますが、秋のすすきが原のドライブウェイは涼風を受けてのさわやかな走行です。

 幼い時から、この二つの山並みをいつも仰ぎ見てきました。葛城の地は古代大和先住人である葛城氏一族の居城で、字の通り、クズの蔓で編んだ巨大な城があったのでしょう。

かずら橋

  クズの蔓は非常に頑丈なもので、平家の落人部落として有名な祖谷(イヤ)渓谷に架かる「かずら橋」を渡ってみて実感しました。葛の蔓だけで編まれた全長45メートルの吊り橋の渡りはかなりの清涼感を味あわせてくれます。

 夕暮れ近くの到着でその日の宿はホテル祖谷温泉にとりました。谷底にある源泉かけ流しの露天風呂まで、ケーブルカーで約170メートルを約5分をかけて、傾斜角42度の断崖をくだります。祖谷川の流れにせり出すように造られた露天風呂には白い湯の花が浮いていました。
森野旧薬園

  奈良県大宇陀に、十代目の森野藤助が享保年間に開いた「小石川植物園」と並ぶ日本最古の薬草園「森野旧薬園」があります。 約250種類の薬草が四季折々に可憐な花を咲かせていますが、従来、森野家は葛デンプンを製造する四百年の老舗で、現在も吉野葛本舗を名乗っています。クズデンプンは滋養剤とするほか、結合と崩壊に優れていることから錠剤の賦形剤としても使われています。尚、市販のクズデンプンのほとんどはジャガイモデンプンです。本物のクズのみを使用したものは「本葛」と呼んでいます。クズ粉を水で溶いて砂糖を加え、ゆっくりと過熱しながら透明になるまで練り上げたものが「葛湯」で、初期の風邪の民間療法として飲まれています。溶かしたクズ粉を冷やして固めたものが葛餅で、麺状にしたものが葛切りです。近隣にある「大願寺」ではクズも使った薬草料理が味わえます。

 クズの根は、葛根(カッコン)という生薬で、漢方薬「葛根湯」の主薬です。「風邪の引きはじめで、頭痛、背中から首筋にかけて凝り、ぞくぞく寒気がする人で、汗のかいていない人」によく効きます。中国黒竜江省から帰って、旅の疲れもあって、食欲不振?で体が重くて仕方なかったのですが、特に肩がパンパンに凝っているのに気がついて、葛根湯を服用しました。すると、見事に肩のこりが治まり元気が取り戻せました。カッコには、主成分ダイゼインがあって、僧帽筋の緊張を緩める働きがあり、肩こりが楽になります。

 クズの根は大きく横に張る性質のあることから、崖の防崩植物としても植栽され、アメリカでも多くの地域で植え付けられましたが、これがあまりに繁殖しすぎて森林被害を出しています。その駆除対策に大わらわのようです。

 クズの花は葛花(カッカ)として二日酔いの妙薬です。名月とクズの花を愛でながら、良き仲間との一献は、二日酔いの心配なく楽しめるこの上もない趣向(酒肴)かもしれません。 

YouTube「寄り道脱線 生薬雑話」の「【3話】クズ(葛)はクズ(屑)ではありません」に クズについての動画が収載されています。


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